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液晶(LC)材料

 液晶は液体の性質(流動性)を持ち,かつ結晶の有する光学的異方性を示す物質で,結晶と液体の中間の性質を示します。液晶分子は何らかの方向性の秩序(配向性)は保っているものの,位置的な秩序を持っていない状態にあります。液晶材料は低分子から高分子まで知られており,硬直なπ骨格と柔軟な長鎖アルキル基を組合せた構造を持っています。液晶分子のπ骨格は平面状のものもありますが,多くの場合において細長い棒状の分子であり,分極しやすい原子団を有しています。アルキル基の鎖長を変えることで液晶温度を制御することが可能で,室温付近で液晶相を示す物質がより実用的です。液晶材料はディスプレイへの応用の他,半導体としての応用例も期待されています。液晶性を有する半導体は液晶半導体と呼ばれ,液晶分子の持つ自己組織化能によって自発的に分子配向を実現できる系として研究されています1,2)
 液晶分子の配向性の種類により,液晶相はネマティック相,スメクティック相,コレステリック相,ディスコティック相に大まかに分類されます。また,液晶分子にキラリティを導入することも可能で,それらはキラルネマティック相あるいはキラルスメクティック相と呼ばれます。
(1) ネマティック相
 棒状分子が一次元に配向しており,個々の分子は長軸方向に比較的自由に移動できる状態にあります。このことから,最も柔らかい部類の液晶相で,流動性が大きく粘度が小さいことで知られています。ネマティック液晶分子として,シアノビフェニル系などの誘電率異方性(Δε)の大きい棒状分子を用いることで,電場による分子配向の高速制御が可能となります。ねじれネマティック(Twisted Nematic: TN)方式3)の液晶ディスプレイには,ネマティック液晶が用いられています。

(2) スメクティック相
 ネマティック相に比べ,より位置的な制約を受けることで2次元の層状構造を持っているのがスメクティック相です。分子の移動可能な範囲が比較的狭いため,ネマティック液晶よりも硬い液晶相であることが知られています。また,ネマティック相の冷却によりスメクティック相が現れることがあります。スメクティック相は,層構造の違いにより多くの種類の液晶相が知られています。

(3) コレステリック相(キラルネマティック相)
 コレステロール誘導体で主に現れるコレステリック相は,各層内で分子が一方向に揃ったネマティック相に似た分子配列を持ちますが,隣り合う層ごとに少しずつねじれた螺旋構造になっています。この原因として,コレステロール分子に含まれる不斉炭素(キラル中心)が挙げられます。このため,コレステリック相はキラルネマティック相と呼ばれることもあり,旋光性,選択光散乱,円偏光,二色性などの性質を示します。また,最近ではブルー相4)と呼ばれる液晶相が盛んに研究されており,これはコレステリック相と等方性液体相の中間の温度領域に現れることが分かっています。ブルー相は通常,1~2℃の非常に狭い温度範囲でしか観測されない問題点がありました。しかし,ブルー相中で少量の高分子を形成させることで,ブルー相の温度範囲が数十℃以上に広がることが報告されています(高分子安定化ブルー相)5)

(4) ディスコティック相
 ネマティック相,スメクティック相が主に棒状分子によって構成されるのに対し,ディスコティック相の形成にはディスク状の芳香族分子(フタロシアニン6),トリフェニレン7),ヘキサベンゾコロネン8)など)が用いられます。ディスク上の分子は積層して通常は一次元カラム(カラムナー相)を形成します。このカラムの積層方向に電気伝導を起こす可能性があるため,ディスコティック相は有機エレクトロニクスの分野でも注目されています。一方,ディスコティック液晶は1次元のカラムナー相をとるのが一般的ですが,分子修飾を工夫することにより3次元に集積したキュービック相となる例も報告されています9)
 

 

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