一酸化炭素(CO)は,有機合成化学において主要なカルボニル基導入試薬として用いられています。これまで数多くのCOを用いる有機合成反応が開発されていますが,COは常温で無色無臭な有毒気体であることから,その取扱いには細心の注意を払う必要があります。このような側面をもつため,COを用いる合成法では,新規反応の開発のみならず,より安全に扱える一酸化炭素代替試薬の開発も進められてきました。
眞鍋らはCOに替わる試薬として,ぎ酸誘導体に着目して検討を進めた結果,ぎ酸2,4,6-トリクロロフェニル [T3121]がCO等価体として機能することを見出しました1)。この化合物は室温で安定な結晶状固体ですが,三級アミンのような塩基を作用させると,室温で速やかに分解してCOとトリクロロフェノールになり,パラジウム触媒の存在下,アリール/アルケニルハライドとのカルボニル化反応によりトリクロロフェノールエステルを与えます。得られたエステルに種々の求核剤を作用させると,対応するカルボン酸誘導体に変換できます。この反応は,グラムスケールにおいても収率が低下することなくカルボニル化が進行する実用性の高い合成方法です2)。
続いて眞鍋らは,N-ホルミルサッカリン [F0854]をCO等価体として用いる還元的カルボニル化反応を開発しました3)。この反応では酢酸パラジウムを触媒として使用し,臭化アリールにトリエチルシランを組み合わせることで還元的カルボニル化を行っています。生成するアルデヒドのホルミル基上の水素原子は,トリエチルシラン由来のヒドリド種が付加したものです。
ぎ酸2,4,6-トリクロロフェニルを用いるカルボニル化では,副生する2,4,6-トリクロロフェノールが求核性を示すため,別の求核剤を同時に用いると反応が複雑化する傾向にありました。一方,N-ホルミルサッカリンを用いる方法では,副生するサッカリンの求核性は低いので,ヒドロシラン類を求核剤に用いて一度に反応させることが可能です。
参考文献
- 1) T. Ueda, H. Konishi, K. Manabe, Org. Lett. 2012, 14, 5370.
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- 2) H. Konishi, T. Ueda, K. Manabe, Org. Synth. 2014, 91, 39.
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- 3) T. Ueda, H. Konishi, K. Manabe, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 8611.
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