不活性結合の活性化による変換反応は,大きく2つの形式に大別されます。1つは配向基によるキレーション補助を利用する方法で,低い原子価状態の金属種が不活性結合に酸化的付加することで活性化を行います。この方法は,配向基の隣接位が位置選択的に活性化されて反応が進行します。もう1つは比較的酸性度の高いC-H結合を,高い原子価状態の金属種で切断する方法です。この方法では,金属種の価数を高原子価の状態に戻すのに再酸化剤を必要とする場合があります。また,高原子価金属種を用いる反応においても,キレーション補助は位置選択的な反応を行う上で有効となります。
不活性結合の活性化を経由する官能基変換反応に用いられる金属種は,パラジウム,ルテニウム,ロジウム,イリジウムなどであり,貴金属種がその多くを占めます。一方,最近ではニッケル,銅,鉄など,比較的安価な金属種も不活性結合の活性化に利用されるようになりました。 これまでに数多くの研究が行われており,C-H結合の活性化を経由するアリール化,アルケニル化,アルキル化,カルボニル化,ヘテロ原子官能基化など,様々な変換反応が報告されています。上記反応の多くは,芳香環やアルケンなどの不飽和炭素上のC-H結合を別の官能基に変換する反応ですが,最近ではより活性化が困難なsp3炭素上のC-H結合の切断を伴う変換反応も開発されています。不活性結合の活性化の手法は,非常に多岐に渡っています。
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C-H活性化 [触媒反応]
近年,不活性な結合を遷移金属触媒で活性化し,官能基変換に用いる方法論の開発が盛んに行われています。なかでもC-H結合活性化反応は,クロスカップリング反応に用いるとハロゲン化物もしくは有機金属化合物が不要となることに加え,反応工程数の低減にもつながるため,低環境負荷型の反応として注目されています。その反応形式を重視した表現としてC-H結合変換反応(C-H Bond Transformation),C-H結合官能基化(C-H Bond Functionalization)とも呼ばれます。
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1993年,村井らは,触媒量のカルボニル(ジヒドリド)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)の存在下,芳香族ケトンのオルト位炭素-水素結合が活性化され,オレフィンに位置選択的に付加することを報告しています1)。これを契機にC-H活性化反応の開拓は,飛躍的に進み始めました。
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