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【ミニコラム】 試薬の変わった使い方:
SCOOPY反応による多置換オレフィン合成

東京化成工業株式会社 田口 晴彦

 このコーナーでは毎回,試薬の変わった使い方に焦点を当て,試薬メーカーならではの視点から使用法を紹介しています。さて,今回はいつの日か自分も・・・と目標に掲げている研究者も多い人名反応にスポットを当てたいと思います。
 有機合成の勉強を進めていくと,必ず目にするのが人名反応だと思います。また人名反応ではなくても,有用な反応を可能にする試薬には,その開発者の名前を冠した,いわば人名試薬ともいいましょうか,そのような試薬もメーカーから多く販売されています。有機合成の研究者にとって,自分が開発した反応,試薬が世に広まることは研究者冥利に尽きるといえるでしょう。さて,人名反応,英語ではname reactionですが,人名に限らず,メタセシス反応やエンインメタセシス,マロン酸エステル合成のようなコンセプトを示した反応も数多く含まれています。そう考えるとname reactionは非常に的を射た表現に思えてきますね。
 インターネットが普及した現在ではname reaction の情報は容易に入手できます。さらにname reaction をまとめた書籍「STRATEGIC APPLICATIONS of NAMED REACTIONS in ORGANIC SYNTHESIS」も出版されており,その中には250ものname reactionが紹介されています。有機反応を勉強するにも適した一冊ですが,この本を眺めているうちにある反応のことを思い出しました。
 その反応の名は“SCOOPY反応”。有機合成に詳しい方はご存じかと思いますが,気になってインターネット検索してみたところ,ほとんどヒットしないのです。おそらく類似反応であるWittig-Schlosser反応の派生反応との認識なのか,SCOOPY反応という言葉はあまり使われていないようです。ところが,このSCOOPY反応,なかなか侮れません。三置換オレフィンを高立体選択的に合成する反応として非常に有用なのです。
 とその前に,SCOOPYさんとはいったい誰なのでしょう?ヒントを1つ。“何者”ではなく,強いて表現するならば“何モノ”でしょうか。答えは・・・実は人名ではなく,ある反応の名称を表したものなのです。α-Substitution plus Carbonyl Olefination via β-Oxido Phosphorus Ylides この頭文字を取って S.C.O.O.P.Y と表現したのです1)。Wittig-Schlosser反応の開発者であるM. Schlosserが提言した言葉です。S.C.O.O.P.Y をそのまま解釈すると,“β-オキシドリンイリドの特性を活用したα-置換反応とカルボニルオレフィン化反応の合わせ技”といった具合でしょうか。ではβ-オキシドリンイリドの特性とはいったいどのようなものなのでしょう?
 β-オキシドリンイリドはWittig反応で形成されるベタイン中間体から,さらにもう1当量のフェニルリチウムを作用させることで生成する中間体です。先にエリスロ型β-オキシドリンイリドが生成しますが,熱的平衡の速度が速いため,低温下でも速やかにより安定なスレオ型β-オキシドリンイリドへと異性化します。
 この化学的性質を発見したM. Schlosserらは,スレオ型β-オキシドリンイリドをプロトン化することで,二置換オレフィンが立体特異的に得られることを見出します。これがWittig-Schlosser反応です。
 さらにM. Schlosserらはβ-オキシイリドについて,1969年創刊のSYNTHESIS誌の記念すべき第1号に“Carbonyl Olefination with α-Substitution”というタイトル名の論文を発表します2)。この“with α-Substitution”というのはもちろんβ-オキシドリンイリドを指しています。ヨウ化メチルが立体特異的に“α-Substitution”されて,三置換オレフィンが生成すると報告しています。これが後にSCOOPY反応と呼ばれるのですが,当時はまだその名称は使われていなかったようですね。この“Carbonyl Olefination with α-Substitution”のコンセプトはインパクトがあったようで,その後,複数の研究者によりフォローされ,様々な求電子試薬との反応性が検討されていきます。
 そして1971年,M. SchlosserらによりSYNTHESIS誌にS.C.O.O.P.Yの名を冠した論文が発表されました1)。この論文の冒頭は,今では想像もつかないような書き出しで始まるのですが40年以上たった現在でも,当時のM. Schlosserの興味と期待が伝わってくるようなワンセンテンスであり,大変印象深い論文となっています。
 SCOOPY反応は三置換オレフィンを合成する手法として精密有機合成,特に天然物有機合成でしばしば使われています。ただWittigタイプの反応の宿命か,100%立体化学を制御することは大変困難であり,時にはほぼ等モルのEZ混合比で立体化学が全く決まらない,という難しさも含んでいます。
 β-オキシドリンイリドの特性を利用するSCOOPY反応,Wittig-Schlosser反応に押されて影が薄いですが,三置換オレフィンを高立体選択的に合成する手法として確たる地位を築いています。重ヘテロ原子であるリンの特性を十二分に発揮したS.C.O.O.P.Yのプロセス,有機合成にぜひ取り入れてみてください。

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