東京化成工業株式会社 田口 晴彦
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【ミニコラム】 試薬の変わった使い方:
Tebbe試薬とPetasis試薬を用いた閉環メタセシス反応
No.155(2012/10発行)
弊社では現在,およそ2万2千品目の試薬を取り扱っています。試薬は研究分野により様々な使用目的があり,そのほとんどはメジャーな使い方をされる場合が多いと思われます。ただ,着眼点を変えてみてみると非常に変わった使い方をされている試薬も多々あると感じています。このコラムでは,そういった試薬の変わった使い方について,試薬メーカーならではの視点からいろいろ紹介していきたいと思います。
まず本号では,弊社の製品にあるTebbe試薬,Petasis試薬に着目しました。Tebbe試薬とPetasis試薬は,カルボニル化合物をメチレン化する試薬として広く知られています。またこれら2つの試薬を購入される方の多くは,そのような使い方をされているのではないでしょうか。論文などを見ると,全合成においてカルボニル化合物に対し,両試薬のいずれかを用いてメチレン化し,さらにGrubbs試薬で閉環メタセシス反応する合成戦略がよく見受けられます。このように容易に末端オレフィンが得られるTebbe,Petasis両試薬は,Grubbs試薬と共に大環状化合物構築に欠かせない試薬の一つであるといえるのではないでしょうか。
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かつての大環状化合物の構築法といえば山口マクロラクトン化,Corey-Nicolaouマクロラクトン化などが常法でした。その後,分子内溝呂木-ヘック反応により環化を行う手法が開発され,90年代に入るとRuやMoに代表される閉環メタセシス反応が導入され,現在では最も有用な大環状化合物の構築法の一つとなりました1)。
さて,RuやMoからなるカルベン錯体は,閉環メタセシス反応に多用されています。その大きな理由は,これらカルベン錯体が末端オレフィン部位と特に高い親和性を持ち,高い反応性を示すからです。一方,Tebbe試薬,Petasis試薬はいずれもTi-カルベン錯体の前駆体であり,反応系内で発生するTi-メチリデン錯体はオレフィンとのメタセシス反応も進行します。しかし,Ti-カルベン錯体の場合,事情が少し異なります。カルボニル化合物との親和性がより高いため,一般にはカルボニルオレフィン化の試薬としてのイメージが非常に強いといえます。それは事実であるので仕方ないのですが,メタセシス反応も起こることから全合成においてもGrubbs試薬と同様に使えるのでは?と考える研究者もいたことでしょう。そこで文献を調べてみるとK. C. Nicolaouらが全合成においてTebbe,Petasis試薬の分子内閉環メタセシス反応の可能性について研究していました2)。その論文内容を簡単に紹介しましょう。
![](/assets/cms-images/155column-02.gif)
Nicolaouらが着目したのは海洋性ポリエーテル化合物です。この環状ポリエーテル構造の合成にTebbe,Petasis試薬を用いて詳細に検討しました。結果はというと6員環,7員環のポリエーテル構造の合成に両試薬が使用できるとのことでした。残念ながら,環状ポリエーテルのように構造が固定化されたものにおいては有効でしたが,自由度の高い非環状体からの環化反応には適用できませんでした。そういう意味では,さまざまな基質に適応可能なGrubbs試薬は,まさにノーベル賞クラスの試薬であるといえます。
さて,近年になりTebbe,Petasis試薬と反応形式上,同様な反応が進行するCH3CHBr2-TiCl4-Znを用いた反応系がより高い反応活性を示すことが報告されました3)。この試薬を用いると,環状エーテルはもちろん,非環状型のジエンからも,分子内閉環メタシシス反応が進むことが初めて示されました。有機チタン試薬も少しずつ進歩しており,いつかGrubbs試薬同様,環状化合物の構築法の一手法として活用される日が来るかもしれません。
このようにTebbe,Petasis試薬はカルボニル基のメチレン化に有効な試薬ですが,さらに使い方を選ぶことで,限定的ではありますが分子内閉環メタセシス反応にも使える,という隠れた魅力も持ち合わせています。ぜひ,いろいろな有機合成研究の場面で弊社製品をご活用ください。
文献
- 1) K. C. Nicolaou, P. G. Bulger, D. Sarlah, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4490.
- 2) a) K. C. Nicolaou, M. H. D. Postema, C. F. Claiborne, J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 1565.
b) K. C. Nicolaou, M. H. D. Postema, E. W. Yue, A. Nadin, J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 10335.
- 3) K. Iyer, J. D. Rainier, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 12604.
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