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高磁場NMRで利用可能な水溶性キラルシフト試薬

 最も身近な分析機器であるNMRを用いて光学活性化合物の光学純度や絶対配置を決定する方法が種々開発されています。そういった手法の一端に,常磁性のキラルランタニド錯体の磁気異方性を利用してエナンチオマーを区別するキラルシフト試薬法があります。例えば,ユウロピウムのプロピレンジアミン四酢酸錯体(Eu-pdta)が,重水溶液中,α-アミノ酸,α-ヒドロキシ酸の絶対配置決定に有用であることが報告されています。しかしながら,近年,広く普及している高磁場NMRではシフト試薬の添加が強いシグナルブロードニングを引き起こし,しばしば不満足な測定結果を与えることから,高磁場NMRにおいてブロードニングを起こさないキラルシフト試薬が求められています。
 近年,甲らはサマリウム錯体Sm-pdta (1)が,高磁場NMRにおいてもシグナルブロードニングを起こしにくく,また,対応するユウロピウム錯体と同様,α-アミノ酸,α-ヒドロキシ酸の絶対配置決定に利用できることを報告しています。高磁場NMRとキラルシフト試薬を用いるこの絶対配置決定法は極めて簡便で,また,複数の観測核の化学シフトの非等価性を同時に調べることができるため,新Mosher法と同様に結果の信頼性も評価できます。

図1. 1H NMR spectra (400MHz) of valine (0.06M, [D]/[L]=1/2.85) in D2O at pH9.4.

α-アミノ酸のエナンチオマーシグナル分離
 1によるα-アミノ酸のエナンチオマーシグナル分離は,そのアミノ酸のpKa値付近で最大となるため,試料の重水溶液のpHを9〜10程度に調整して測定を行います。その際,試料溶液中にリン酸塩や炭酸塩など,1にキレート配位する可能性のある塩類の存在は好ましくない結果を与える場合があるため,pH調整はNaODの重水溶液(2M程度,微調整用により薄い濃度の溶液も用意するとpHを合わせやすい)を用いて行います。試料中にD-体とL-体の両エナンチオマーが混在している場合には, ここに直接,1を少量ずつ(アミノ酸の濃度が0.06Mの場合,試薬当量は全量で5〜20mol%が適量)加えて振盪し,均一な溶液にした後にNMR測定を行います。図1にこのようにして測定を行った,バリンのエナンチオマーシグナルの分離例を示します(1H NMR,400MHz,[valine] = 0.06M,D/L = 1/2.85,pH9.4,[1a] / [valine] = 0.2)。1はそれ自身,複数のブロードなシグナルを2〜4ppm付近に持つため,エナンチオマー組成を求めるには不適の場合もありますが,この例のように錯体のシグナルが基質のシグナルと重ならずに,なおかつエナンチオマーシグナルがベースラインで分離した場合には積分値の比から(D/L = 1/3.02),おおよそのD/L 比を求めることができます。
絶対配置の決定
 D/L比が1/2となるように混合した種々のα-アミノ酸を上記の条件で測定し,得られたエナンチオマーシグナル分離を以下に示します(表1)。

表1. Resolution of enantiomer signals of amino acids in the presence of 1a.

 ここでΔΔδはδ(L)-δ(D)であり,δ(L)は1a存在下でのL-アミノ酸の1Hシグナルの化学シフト,δ(D)はD-体のそれを表します。図2に示したように1aの存在下,α-アミノ酸のエナンチオマー間ではHαの化学シフトはD-体のシグナルがL-体よりも高磁場に現れ,逆に側鎖の水素のシグナルはL-体のシグナルがD-体のものよりも高磁場に現れます。このHαシグナルと側鎖の水素のシグナルを観察することで,α-アミノ酸の絶対配置が帰属できます。また,α-ヒドロキシ酸に関してもα-アミノ酸と同様の相関が認められています。 

図2. Relative position of proton signals of amino acid enantiomers in the presence of 1a.

単一エナンチオマーでの絶対配置の決定
 実際に得られる試料は一方のエナンチオマーのみであることが少なくありません。単一エナンチオマーの絶対配置を決定する際は,1aおよび1bの存在下でそれぞれ測定を行い,対応するシグナルの化学シフトを比較することで絶対配置を決定することが可能です。これは1bの存在下での測定結果が,1aの存在下でもう一方のエナンチオマーを測定した場合と同じであることによります。アミノ酸の1H NMRシグナルの化学シフト値は,濃度,温度,pHに鋭敏であるため,各々の試薬当量以外にこれらの条件も厳密にコントロールする必要があります。具体的にはpH調整を行った試料の重水溶液を同量ずつ2本のサンプルチューブに取り分け,ここにpH8付近に調整した同濃度の1aおよび1bの重水溶液をマイクロシリンジでそれぞれ加えた後,測定を行います。

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