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化学よもやま話

~研究室訪問記~ 科学クラブを訪ねて: 茨城県立水戸第二高等学校 数理科学&生物同好会

はじめに

 TCIメールでは,国内外で活躍する中高等学校の科学クラブの活動を紹介しています。第六回目では初めて女子高校に足を運ぶことにしました。今回は,2011年11月に「BZ反応における新たな発見」がアメリカ化学会学術誌(The Journal of Physical Chemistry A)に掲載されて大きな反響を呼んだ,水戸第二高等学校数理科学&生物同好会にスポットを当てたいと思います。
 同校は,第四回目で紹介した福島高等学校スーパーサイエンス(SS)部と同様に,科学技術系の人材を育てるために文部科学省が指定したスーパーサイエンスハイスクール(SSH)として2期8年の活動実績を持っています。SSH校の活動として,グループで独自テーマを設定して研究に取り組む授業「SS課題研究」,研究者を招いて年2回開催している講演会,さらに2年生の夏休み休暇を利用した米国研修も実施しています。

 2011年3月の東日本大震災では同校も実験室の入った校舎が大きな被害を受けました。取材に伺った2014年9月6日は新校舎が完成したところで,案内された真新しい実験室から生徒たちの「やる気」が伝わってきました。

沢畠博之先生(上段左),星浩一先生と数理科学&生物同好会の集合写真

沢畠博之先生(上段左),星浩一先生と数理科学&生物同好会の集合写真

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水戸第二高等学校数理科学&生物同好会の紹介

 数理科学同好会はBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応,生物同好会はクマムシの蘇生を主テーマに現在も研究活動を進めています。

Blelousov-Zhabotinsky(BZ)反応

・振動反応としてのBZ反応
 振動反応は,系内のいくつかの化学種濃度が,時間の経過と共に規則的な周期性を持って増減する一連の反応を指します。このとき用いる化学種が色を持っていると,色が変化した後に再び元の色に戻る,見栄えの良い実験になります。これまで溶液の色,pH,温度などが周期的に変化する振動反応が数多く報告されていますが,その中でも代表的な例が今回紹介するBZ反応です。

 BZ反応は,金属塩と臭化物イオンを触媒としてマロン酸などのカルボン酸を臭素酸塩によりブロモ化する化学反応です。1951年にロシアの科学者B. P. Belousovが,細胞内の代謝反応であるクエン酸回路のモデル反応として考案しました。反応は以下の反応式で表されます。

Blelousov-Zhabotinsky reaction

 金属触媒に酸化還元指示薬であるフェロイン(ferroin)を用いるBZ反応では,赤色溶液のferroin ([Fe(phen)3]2+)と青色溶液のferrin([Fe(phen)3]3+)を,均質な溶液の状態で周期的に繰り返します。同時に酸化還元電位を示すPt電極電位(EORP)も低電位(ferroin)と高電位(ferrin)を交互に示します。さらに,この反応溶液をシャーレに薄く広げると,同心円状やスパイラル状のパターンが自発的に形成されることが知られています。
 生徒たちは,このBZ反応の振動が起こる初期濃度に着目し研究を進めていました。そんな折,ある週末に行ったBZ実験が,週明けの月曜日に来てみると,振動が停止していました。これまで長時間のBZ反応を行った経験がなかった彼女らにとって「振動はどのように止まったのだろう」と疑問に思ったそうです。
 BZ反応については「どのように振動が起こるのか」については広く研究されてきましたが,「どのように振動が止まるのか」についてはあまりよく知られていませんでした。これをきっかけにBZ反応における「振動がどのように止まったのか」を突き止める実験がスタートしました。
・生徒らの新しい発見とは

 2年以上の根気強く重ねた実験により,振動が止まる原因を少しずつ明らかにしていきました。その中でも,ある特定の初濃度領域から振動を開始した溶液では,一旦停止した振動が約5~20時間後,突然振動を再開することは非常に大きな発見となりました。さらに,マロン酸と臭素酸ナトリウムの各初濃度領域が振動停止に関係すること,および閉鎖系BZ反応長時間挙動に典型的な4つのタイプがあることまで突止めました。

閉鎖系BZ反応長時間挙動の一例。横軸:時間,縦軸:Pt電極電位EORP (V)

閉鎖系BZ反応長時間挙動の一例。横軸:時間,縦軸:Pt電極電位EORP (V)

 本研究報告は,日本物理学会2010年春季年会Jr.セッションの審査員をしていたT. Petrosky先生(テキサス大学複雑量子系センター)の目に留まり,BZ反応専門家の北畑裕之先生(千葉大学理学部物理学コース)のご助力を得て2011年にJ. Phys. Chem. A誌に掲載されました。さらに,2012年には「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞—特別賞」を受賞しました。より詳しい内容は,下記論文とWebサイトをご参照ください。

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クマムシの蘇生

・クマムシとは
 クマムシは緩歩動物(Tardigrada)に属する体長1mm以下の動物で,コケや深海,高山など世界中に生息し,約1000種が知られています。クマムシは乾燥などの環境ストレスに曝されると,通常は85%を占める水分を3%まで減らして樽(tun)のような形になります。このtun状態という無代謝状態(クリプトバイオシス)になると,一般的な生物は生育できない極度の環境ストレス(温度変化:-200~150℃,圧力変化:真空~7万5千気圧,乾燥,高放射線,有機溶媒)に耐えることができます。クマムシの驚異的な環境適応力については多数の研究報告があります。
・生徒らの新しい発見とは
 生徒たちが自然乾燥によりtun化したクマムシに蒸留水をかけた際,一部のクマムシが蘇生しなかったことをきっかけにクマムシの蘇生に関する実験を始めました。その結果,クマムシの種により環境ストレス耐性に差があること,およびtun状態へ移行するときの湿度次第で移行が失敗することを見出しました。クマムシの“弱さ”に関する研究報告例は少なく,貴重な研究成果と言えます。本成果は茨城大学主催の第四回 高校生の科学研究発表会で優秀発表賞を受賞しています。本研究では,クマムシ研究者の堀川大樹先生(パリ第5大学・フランス国立衛生研究所)からのご助言も頂いています。

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◇第四回 高校生の科学研究発表会(2014年1月11日,茨城大学)

優秀発表賞(口頭部門): 海老沢聡美さん,若林果菜子さん 「クマムシのtun状態における環境ストレス耐性」

◇平成26年度SSH生徒研究発表会(2014年8月6日,パシフィコ横浜)

生徒投票賞: 海老沢聡美さん,若林果菜子さん 「Tun状態へのプロセス-クマムシが蘇生するための条件とは?-」

◇堀川大樹先生のクマムシ研究解説サイト

(National Geographic 日本版,tun化と蘇生の動画あり)

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おわりに

 今回は,初めて女子高校を取材させていただきました。他校に例を見ない,オリジナリティー溢れる研究が印象的でした。先生は謙遜して「自由奔放」と話されていましたが,取材中は研究と実験についての話題が取り留めなく続き,最後は「クマムシ愛!」の話まで出て,良い意味での女子生徒らしさを感じました。でもそんな彼女たちだからこそ,根気強く研究が続けられたのでしょう。水戸第二高等学校の数理科学同好会と生物同好会のご活躍とご発展を期待しています。新しい出会いと発見を求めて,今後も中・高校などの学校科学クラブのご紹介を続けていく予定です。

平成26年度SSH生徒研究発表会ポスター

平成26年度SSH生徒研究発表会ポスター

実験室で見つけたBZ反応ディスカッションの跡

実験室で見つけたBZ反応ディスカッションの跡

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