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創薬分野において、スルホンアミド部位は重要な部分構造のひとつです。例えば、20世紀初めから知られている、抗菌剤プロントジルをはじめとしたサルファ剤や、ブロックバスター医薬であるセレコキシブなど、スルホンアミド部位は多くの医薬品に含まれています1)。また、フラグメント創薬(fragment-based drug design, FBDD)においても、標的タンパクと相互作用する小分子として探索研究に活用できます2)。さて、医薬品の部分構造を類似の官能基に置き換えることにより、生体内で同等かそれ以上の活性を示す例が知られています。このような分子はバイオアイソスター(生物学的等価体)と呼ばれます。スルホンアミドはカルボン酸と似た構造を有し、酸性プロトンも有するため、カルボン酸のバイオアイソスターとしても利用できます3)。
図1. (a) スルホンアミド構造を含む医薬品、(b) カルボン酸の生物学的等価体としてのスルホンアミド、(c) フラグメント創薬 (fragment-based drug design, FBDD) (画像は文献2より改変して引用)
第一級スルホンアミドは、一般にスルホニルクロリドとアンモニアとの縮合反応により合成されます。この方法は信頼性が高く、入手容易なスルホニルクロリドに対して広く利用できます。また、チオールに対し、酸化的条件下でアンモニアを作用させることによってもスルホンアミドを合成できます。しかしながら、第三級アルキル基や電子豊富なヘテロ環化合物等、酸化的条件に敏感な基質はこの方法の適用は困難です。
一方、Willisらは、市販のGrignard試薬や有機リチウム試薬にtBuONSO (製品コード: U0150)を作用させると、硫黄原子への求核攻撃を伴って第一級スルホンアミドが得られることを報告しました4)。この反応は酸化に敏感な第三級アミン、ヘテロ環、塩基感受性が高くて立体障害が大きいtert-ブチル基のような、かさ高いアルキル基でも適用可能です。さらに、複雑な構造をもつドラッグライクな基質にも用いることができ、この反応を適用したセレコキシブの合成も報告されています(図3)。
図2. 第一級スルホンアミド化合物の合成法
図3. tBuONSOから得られる第一級スルホンアミド化合物の一例
スルホンアミドのN-アルキル化反応
MacMillanらは、スルホンアミドのアミン部位に超原子価ヨウ素および光レドックス触媒等を作用させると、アルキル基を一つ導入できることを報告しました5)。通常、アミン部位のモノアルキル化や、歪んだアルキル基へのSN1、SN2型求核置換反応は困難です。このため、本反応はスルホンアミドのさらなる変換反応として有用で、多種多様な化合物を要するライブラリー構築に用いられることが期待されます。
図4. スルホンアミドのN-アルキル化反応
引用文献
- 1) Design and synthesis of novel celecoxib analogues as selective cyclooxygenase-2 (COX-2) inhibitors: replacement of the sulfonamide pharmacophore by a sulfonylazide bioisostere
- 2) (review) The rise of molecular simulations in fragment-based drug design (FBDD): an overview
- 3) (review) Bioisosterism: A Rational Approach in Drug Design
- 4) Primary Sulfonamide Synthesis Using the Sulfinylamine Reagent N-Sulfinyl-O-(tert-butyl)hydroxylamine, t-BuONSO
- 5) Decarboxylative sp3 C-N coupling via dual copper and photoredox catalysis