カルボニル化合物をオレフィンに変換する方法は,有機合成上非常に重要な変換反応であり,これまでに数多くの合成手法が開発されてきました。中でも重ヘテロ原子の特性に着目した手法は古くから研究されており,りん原子の特性を生かしたウィッティヒ反応を筆頭に,ケイ素原子の特性を利用したピーターソン反応,硫黄原子の特性を生かしたジュリア‐リスゴー反応,ジュリア‐コシェンスキー反応など,多くのオレフィン化反応が開発されています。最も汎用性の高いウィッティヒ反応,ウィッティヒ型の反応であるホルナー-エモンズ反応では,反応条件の改良や反応処理がしやすい試薬の開発,オレフィンの二重結合の立体化学を制御する方法など,詳細な検討が進んでおり,現在も幅広く利用されています。
1990年代に入ると,有機チタンをカルボニルオレフィン化反応に用いる試みが行われるようになり,多くの成功例が報告されています。有機チタンを用いる反応の最大の利点は,アルデヒド,ケトン以外にエステル,ラクトンなどもオレフィンに変換することが可能な点にあります。また,ウィッティヒ型の反応に比べて弱い塩基性条件下で反応が進行することから,エノール化しやすい基質に対しても高い収率でオレフィンを得ることができます。