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【ミニコラム】 試薬の変わった使い方:
アセトンシアンヒドリンを用いた光延反応

No.156(2013/01発行)
M0361
Acetone Cyanohydrin

東京化成工業株式会社 田口 晴彦

アセトンシアンヒドリンを用いた有機反応
 前回より連載開始した試薬の変わった使い方を紹介するコーナーですが,第二回目は古くからシアノ化剤として用いられているアセトンシアンヒドリンに注目したいと思います。このアセトンシアンヒドリンですが,古くから用いられているためか,用途も多岐にわたっています1)。一般的な用途としては,アルデヒド,ケトンからのシアノヒドリンの合成や,さらにアンモニア共存化ではアミノ酸を化学合成するStrecker反応,α,β-不飽和化合物への付加反応などが挙げられます。一方,シアノ基の供給源としてハロゲン化アルキルとの置換反応も報告されています。さらに工業的にはメタクリル樹脂の合成中間体にも用いられているようです。
 このようにアセトンシアンヒドリン,用途はいっぱいありますが,シアノ化剤としてみた場合,地味な存在であることは否定できません。有機合成をする上でシアノ基導入試薬といえば,やはりシアン化ナトリウムやシアン化カリウムが真っ先に思い浮かぶことでしょう。そこでまずは,これら試薬を用いたアルカンニトリル合成の特徴について触れたいと思います。
二級アルカンニトリルの効率的な合成法
 ニトリル合成は有機化学の教科書でもよく紹介されており,比較的簡単なイメージがあるのではないでしょうか?私も学生の頃,ニトリル合成は,シアン化物イオンの扱いさえ気をつければ楽チン~♪と思っていました。ところが・・・いざやってみると,これがなかなか奥深いものでした。結果,シアン化物イオン廃液を大量に出して散々な結果でした。
 確かにハロゲン化アルキルにシアン化物イオンを作用させると,アルカンニトリルが生成します。ただ,これは一級のハロゲン化アルキルには広く適用できますが,二級ハロゲン化アルキルになると,基質によっては大きく収率は低下してしまいます。求核性の性質と塩基性の性質が両方いっぺんに出てしまい,思うように求核置換反応が進まないためです。三級のハロゲン化アルキルは言うに及びません。このシアン化物イオンを用いるアルキル化反応,実は求核性と塩基性の性質を,身をもって体験できる反応でもあったのです。
 では二級のアルカンニトリルは,どのようにしたら効率よく合成できるでしょう。実験の本では一級のアルカンニトリルを液化アンモニア中,ナトリウムアミドを用いてα‐カルバニオンを発生させる方法が広く紹介されています。ただ,この方法,液化アンモニアを調製するのでひと苦労。少し気が引けてしまいますね。そこで,アルカンニトリルのα‐水素のpKaに着目すると,一般にはおよそ25とあります。ということはLDAなどの塩基を用いれば容易に脱プロトンできます。
 ここにハロゲン化アルキルを加えれば二級のアルカンニトリルが得られるだろう。誰もがそう思うでしょうが,いざこの反応をしてみると,得られてくるのはアルキル基が2つ入った三級のアルカンニトリルばかりです。どうしても二級のアルカンニトリルが得られません。どうもアルキル基が導入されると,α‐水素の酸性度が向上するのか,アルキル化をうまく制御できないみたいです。逆にいうと,三級アルカンニトリルの効率良い合成法である,とも言えます。
 結局,二級のアルカンニトリルを効率よく得る方法,それはシアノ酢酸エステルをマロン酸エステル法と同じ要領でジアルキル化するのが一番確実なようです。ただ,この方法もひと工夫必要で,アルキル化の後,シアノ酢酸エステルの脱炭酸をアルカリ加水分解してから行うと,条件にもよりますが,シアノ基も一部加水分解されてしまいます。気にせずこのまま脱炭酸すれば二級のアルカンニトリルが得られますが,スマートではありません。ここはひとつアルカリ加水分解せず,Krapchoの脱炭酸2)により二級のアルカンニトリルを得るのが最適な方法といえるでしょう。
 シアノ基は官能基変換しやすい官能基であることから,有機合成ではよく用いられます。しかし合成となるといろいろ苦労を伴うこともある,気難しい化合物なのです。
アセトンシアンヒドリンを光延反応に活用してみる
 さて,今回注目するアセトンシアンヒドリンに話を戻すと,この試薬,反応形式的にはシアン化水素と同じように扱えるのが大きな特徴です。ここでシアン化水素のpKaの値がおよそ9.1であることに着目すると,光延反応の反応基質としての活用が考えられます。当然シアン化水素は簡単に扱えないので別の方法を模索するのですが,このような目的にアセトンシアンヒドリンがちょうど合致するのです。文献などを調べると,角田試薬で有名な角田先生がその反応性について詳細に検討していました3)。その文献によると,二級アルコールまでなら条件次第で良い収率でシアノ基を導入することができるようです。
 このアセトンシアンヒドリンを用いた光延反応,さらに詳細に文献調査していくと,医薬品メーカーが原薬の合成を行うのに多用していることがわかります。反応の確実性と,温和な条件下で反応が進行する特徴が,医薬品の合成手法にみごとにマッチしたのでしょう。
 弊社では,光延反応に活用できる試薬を多数取り揃えております。特に角田試薬は酸性度の低いブロンステッド酸にも適用でき,活用範囲は広いものです。アセトンシアンヒドリンを用いた光延反応は,非常に魅力的な反応です。ぜひシアノ基の導入にご活用ください。

文献



 
α-アミノ酸の合成法として古くから用いられている合成法の一つであり,汎用性の高い合成として知られています。アルデヒドまたはケトンに,アンモニアあるいは塩化アンモニウム存在下,シアン化水素を反応させることで得られるα-アミノニトリルを,そのまま加水分解することでα-アミノ酸に変換します。シアン化水素の代わりとして,アセトンシアンヒドリン,シアン化カリウムやシアン化ナトリウム,トリメチルシリルシアニドも使われています。
Krapcho反応はマロン酸エステルやアセト酢酸エステル,シアノ酢酸エステルなど,β-位に電子吸引性基を持つカルボン酸エステルを,加水分解せずに直接脱炭酸する反応を指します。溶媒としてDMSOやDMSO-水混合溶媒が良く用いられます。また食塩,塩化リチウム,シアン化カリウム,シアン化ナトリウムなどを添加することで脱炭酸がよりスムーズに進むようになります。1982年のSynthesis誌において,Krapcho先生がその具体的な使用例を数多く紹介しています1)

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