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化学よもやま話

電子ジャーナルとリンクの話

愛知大学 文学部 図書館情報学専攻 教授 時実 象一

 

 「電子ジャーナルの論文を読んでいて興味のある引用文献があれば,すぐにそれをクリックして元の文献を読む」。これは今や研究者の日常となっています。リンク先はさまざまです。たとえば次の米国化学会ジャーナルJ. Am. Chem. Soc. の論文の引用文献を見てみましょう。

図1 米国化学会J. Am. Chem. Soc. の電子ジャーナル論文

図1. 米国化学会J. Am. Chem. Soc. の電子ジャーナル論文<http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja908744w>

 図2 のように[ACS Full Text],[PubMed],[CAS],[CrossRef] などがリンク先となっています。

図2

図2.

 このうち[ACS Full Text] をクリックすると米国化学会の雑誌論文のどれかにリンクします。この場合は,Acc. Chem. Res. の論文にリンクしました。

図3

図3.

 [PubMed] は医学分野で著名なデータベースで,引用された文献の抄録が載っており,一番下のLinkOut をクリックすると論文の本文にリンクできます。

図4

図4.

 [CAS] は化学データベースCAplus の抄録にリンクします。「View Full Text Options」をクリックすると論文の本文にリンクします。

図5

図5.

 さて最後の[CrossRef] とはなんでしょうか。これは世界の学術出版社が共同で運営している,リンクサービスCrossRef へのリンクです。これをクリックすると,該当論文の電子ジャーナルに直接リンクします。この場合はエルゼビア社が出版するAdvances in Inorganic Chemistry でした。

図6

図6.

 さて,こうしたリンクはどのようにして付けられているのでしょうか。一般にウェブページにはリンクがあります。たとえば次の図で,「subscribe」のところにカーソルを置くと,ブラウザの下の行にリンク先のアドレスが表示されています(図7)。
このような場合リンク先はひとつひとつ手作業でウェブページに書き込んでいます。

図7 日本化学会Chem. Lett. の電子ジャーナル

図7. 日本化学会Chem. Lett. の電子ジャーナル <http://www.chemistry.or.jp/gakujutu/chem-lett/>

 しかし年間100 万件を越える学術論文に書かれているそれぞれの引用文献に,人手でリンク先を書き込むことは不可能です。リンク先は,該当するデータベースを検索して,見つかったものを自動的に書き込んでいます。
 この例(図 2)の場合,米国化学会が自分の出版した論文の中から検索することは簡単で,リンクもすぐに貼れます。また PubMed や CAS のようなデータベースの場合は,論文情報が整理されているので,これも検索も容易です。さて,最後の例(図 7)のように別の出版社の論文はどうでしょうか。他の出版社のサイトにある論文を探すのはコンピュータでも面倒ですし,またリンク先のアドレスも各社ごとに形式が違っていて,とても自動的にリンクを貼ることはできません。さらに出版社の都合でネットアドレスもどんどん変わってしまいます。こうした問題を解決したのがCrossRef です。

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 CrossRef は 2000 年にエルゼビア社や米国化学会など主要学術出版社の協力によって設立された非営利事業です。各出版社は自分のところで出版した雑誌論文の書誌事項とリンク先のアドレスを CrossRef のデータベースに登録します。そのときDOI (Digital Object Identifier) と呼ばれるID も同時に登録します。次に各出版社は自分の雑誌論文の引用文献を CrossRef に送って対応する文献を検索してもらいます。見つかればその論文の DOI を送り返してもらい,それを元の論文の引用文献に貼ります。こうしてこの文献の [CrossRef] と書かれたところをクリックすると,CrossRef が見つけたリンク先を呼び出してその文献にたどりつくわけです。リンク先のアドレスが変更になった場合は,出版社がCrossRef のデータを更新するので,リンク切れになる心配はありません。

 電子ジャーナルの論文にはたいてい DOI がついています。次の例では「10.1039/C1CC14805B」が DOI です。「10.1039」は出版社 ( この場合は英国化学会) のコードで,スラッシュの後ろ「C1CC15237H」がこの論文を示すコードになっています(図 8)。

図8

図8.

 CrossRef を使うと,自分の論文を他の人が引用したときも,それを知ることができます。最初に例にあげた J. Am. Chem. Soc. の論文については,次の論文が引用していることがわかります。

図9

図9.

 このように,CrossRef が 12 年前に始めた引用文献リンクのネットワークは,研究者の論文探しを大変便利にしていることがわかります。

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執筆者紹介

時実 象一 (Soichi Tokizane)   愛知大学 文学部 図書館情報学専攻 教授

[ご経歴] 1968年 東京大学大学院理学系研究科化学専門課程(修士課程)修了,1968年 東洋レーヨン株式会社(現 東レ)研究員,1976年 社団法人 化学情報協会(現 化学情報協会),1995年 Chemical Abstract Service(CAS)アジア太平洋地区責任者,その後科学技術振興事業団などを経て2005年 愛知大学文学部教授,現在に至る。国立国会図書館 科学技術関係資料整備審議会委員ほか各種委員。主な著書「インターネット時代の化学文献とデータベースの活用法」化学同人,「SciFinder活用法—賢い化学情報検索のために」サイエンスハウス,「理系のためのインターネット検索術—ホンモノ情報を早くみつける」講談社
[ご専門] 化学情報学,図書館情報学
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